談志が死んだ

談志が死んだ

談志が死んだ。
立川談志が落語の枕やジョークの1つとしてよく言っていた回文です。
この回文がこんなにも悲しい響きになるなんて、
まだ信じられない気持ちでいます。

僕は談志の落語を聞いて落語を聞くようになりました。
「鼠穴」でした。
それからしばらくは取り憑かれたように
談志の落語ばかりを聞き、
本を読み、
人間の業とはなんなのか、
それを肯定するとはどういうことなのか、
ほんの少しだけわかったような気がしました。

ただ自分には談志のことを書くことなんてできません。
あまりにも恐れ多い。
まだ早すぎます。
なので「鼠穴」のあらすじを書くことにします。
追悼文として。

「鼠穴」

酒と女に溺れて、お金を使い尽くしてしまった竹次郎。
親父に譲られた田地田畑も人手に渡ってしまった。

仕方なく、
江戸へ出て商売で成功している兄の所に尋ね、
奉公させてくれと頼むが、断られる。
それよりも自分の力で商売してみろと励まされ、
元手を貸してもらう。
竹次郎は喜び、
その金でまずはうまいものでも食んで酒を飲もうと、
包みをあける。
するとそこにはたったの三文。
馬鹿にしやがって!
頭に血が上る。
ふっと我に返り、
どうにかこの三文で商売をしようと決心する。

朝は納豆を売り、
帰ってきて茹で小豆を売る、
夕方には豆腐、
夜はうどん、
夜更けにはおいなりさん、
真夜中には泥棒の提灯持ち。

そんな風に働いて二年半。
女房をもらってはな女の子もでき、
十年後には大きな蔵のある立派な店の主人になった。

ある風の強い日、
番頭に火が出たら必ず蔵の鼠穴の目塗りをするよう言いつけ、
あの兄の店へ。

十年前に借りた三文と、
利息として五両を返し、
礼を述べる。

イライラしている竹次郎を見て兄。
「なあ、竹。
あの時おまえにもっと金を貸すなんてできないことではなかったが、
そうしてればおまえは酒飲んで、全部金使ったろう?
だからわざと三文だけ貸して、
それを少しでも増やす事ができたら、
また貸してやろうと思った。
俺のこと恨んだろうが、勘弁してくれ。
俺だってつらかった。」
と詫びる。

そんな兄を見て竹次郎は泣いて感謝する。
久しぶりに兄弟水入らずで酒を酌み交わす。

夜も更けてきたころ、
店のことが心配になり、
竹次郎は帰ろうとする。
もっと話がしたいから泊まって行けと兄。
「もしお前の店が焼けたら、
俺の店を譲ってやる。
それで俺が番頭になってやる。」
とまで言われた竹次郎は、
その言葉に甘えることにした。

すると案の定。
深夜半鐘が鳴り、
竹次郎の店の方向が火事という知らせ。
竹次郎が急いでかけつけたがすでに遅く、
鼠穴から火が入り、店は全焼してしまう。

わずかに持ち出した女房のへそくりを元手に、
再び商売をしてみたがうまく行かず、
親子三人また元の貧しい生活へ。

悪いことは続くもので、
女房が心労で寝付き、
どうにもならず娘を連れて兄に商売の元手として
五十両を借りに行く。

ところが兄。
「今の落ち目のおまえに五十両なんてとんでもない。
店をやると言ったとしても、
酒の上で言っただけだ。
そんなもん信じるお前が馬鹿だ。」
と突っぱねられる。

「よく見ておけ、
人でねえ、鬼だ。
その鬼はおまえのおじだ。
おぼえていなせえ・・・」

精一杯の捨て台詞をたたきつけて表に出たが、
どうにもしようがない。

「私を吉原に売ればお金になるんでしょう?
私がお女郎さんになってお金をこしらえるよ。」
と七つの娘。
泣く泣く娘を吉原に売り、
二十両の金を得るが、
その帰りにひったくりにあってしまう。

絶望した竹次郎は首をくくろうと念仏を唱え、
乗っていた石をぽんとける。

「おい、竹、起きろ!」

気がつくと兄の家。
酔いつぶれて夢を見ていたらしいとわかり、
竹次郎、ほっと胸をなでおろす。

「おいおい、あんま変な夢見るなよ。
しかし竹、火事の夢は燃え盛るって言うからな。
春からおまえ大きくなるぞ。」
と兄。

「ああ、ありがとうございます。
おら、あまりにも鼠穴が気になって。」
と竹次郎。

「無理はねえ、夢は土蔵の疲れだ。」