高橋正吾さんの柴長武蔵写し

高橋正吾さんの柴長武蔵写し

先日鳴子温泉の高橋正吾さんの工房を訪ねました。
柴田長吉郎さん所蔵の高橋武蔵作のこけしの写しをお願いしていたので、
どんな風に仕上がっているのか、
ドキドキしながら、
工房の呼び鈴を鳴らしました。
中から正吾さんの声が聞こえ、ドアが開き、
軽く笑みを浮かべた正吾さんが迎え入れてくれます。
正吾さんは優しいオーラをまとい、
83歳になるとは思えない程、
しゃきっとしていて、かっこいい。
会う度にそんなことを思います。

暖かいこたつでしばらく談笑していると、
「さて‥‥」といった感じで、
作っていただいたこけしの包みを解いてくれます。
出てきたこけしを見て思わず、
「おぉ‥」と声が漏れました。
鮮やかな黄胴に重菊、顔はぐぐぐっと低く、
キッチュでユーモラスな空気を醸し出しています。
素晴らしい。
正吾さんは
「筋力の衰えからか、
顔、筆ひとつ高くなってしまいました。
これが今の私のこけしです。」
と謙遜していますが、
僕が求めていたのは、
完璧な柴長武蔵ではなく、
今の正吾さんの柴長武蔵なのです。
そんな気持ちを完全に満たしてくれる、
素晴らしいこけしです。

それにしても
なぜこんなに低い位置に顔が描かれているのでしょうか。
ずっとそれが不思議で仕方なかったので、
正吾さんに聞いてみたところ、
昭和初期に武蔵の元にきたある蒐集家が
「赤ちゃんの顔はもっともっと低い位置にある。」
と武蔵に言ったことがきっかけのようです。
柴長武蔵はその直後に制作されたこけしであり、
それ以前(大正時代)は普通の位置に顔が描かれています。
この時期をピークに、少しずつ顔の位置は上がり、
戦後にはユーモラスさは薄れ、
洗練された表情のこけしに変わっていきます。
それもまた良いのですが、
僕はこのユーモラスさに強烈に惹かれるのです。
この表情を生むきっかけを作った蒐集家に
深く感謝しなければなりません。

最後に正吾さんの名言を。
「こけしは呼吸のようなものです。
自分の体調、生活、他のいろんなもの全てが出てしまうから、
同じものは作れないのです。
こけしは生きているってことですな。」

ああ、こけしは本当に素晴らしい。