大沼秀顕さんの岩太郎型

大沼秀顕さんの岩太郎型

鳴子の大沼秀顕さんとはたまに電話で長話をします。
育児の話や、愚痴や、健康の話や、
覚えてもいないほどくだらない話もしますが、
こけし界の話、こけしブームの話、工人の話、
もちろん秀顕さんの作るこけしの話もします。
数年前まで秀顕さんは
こけしの写しにはあまり興味が持てないと言っていたのですが、
ここ数年はいろいろな型の写しに挑戦しています。
その真意のほどを尋ねたところ、


今まであまり写しには興味なかったんだけどさ、
そろそろ爺さん達が作ってきたものを
自分の手で残していきたいなあと思うようになってね。
ここんとここんな風にしてんだな、
すんげえ太えなこの木地、
案外大雑把なんだなあ、、、とか、
そんなこと思いながらやってっと楽しくなってきてさ。
だけども、まーた来月も実演だべー?
おじさん疲れちゃうよー。
一澄くんわかってくれるだろうけど、
忙しくてあんまりやる暇ないんだよう。
でもやりたいって気持ちはあるの。
だから待っててねー。


との答えが。
なんだか嬉しくて涙が出そうでした。
秀顕さんは熱い人です。

写真は東北森林管理局長賞を受賞した大沼秀顕さんの尺こけし。
昨年から熱心に取り組んでいる大沼岩太郎型です。
こちらはコンクールに出品したものではありませんが、全くの同型。
出来に遜色はありません。
原は、発生学者の元村勲教授が
大正年間に鳴子で岩太郎として入手したと言われているもので、
こけし辞典の大沼岩太郎の項に小さなモノクロの写真が掲載されています。
師匠であり父の秀雄さんもこのこけしの写しを作ったことはなく、
本格的な写しの製作は秀顕さんが初めてです。

そして出来たこけしは素晴らしいものでした。
量感たっぷりの木地は堂々とした風格に溢れ、
首から肩にかけてのラインがたまらなく美しい。
胴には赤い菊の花びらと葉がバランスよく散っています。
繊細さの中にも大らかさを感じる面描には秀顕さんの優しさが滲み、
なんとも心を暖かくするこけしです。
傑作ではないでしょうか。

こけしは写しが全てではありません。
写しにこだわりすぎるとただのイミテーションにしかならず、
表層的で気持ちの入っていないものになり、
本質的な魅力が消えてしまいます。
しかし写すことで、
先代達の作ってきたこけしと繋がります。
そこに工人自身の個性がじわりと滲み出た時、
こけしの本質的な魅力が宿るように思うのです。
ここ数年の秀顕さんのこけしにはそんな魅力を感じます。

秀顕さんが写しを本格的にやるようになった意味は
とてつもなく大きい。